通勤 — 通勤時間という「第三の場所」
By Nihongo PathUpdated
Strategy notes: read these before the passage
- Long passages follow a story arc: problem → trigger → change → generalization. Mark each paragraph's role so you can find answers fast.
- 「答えは、『何も』だった」: to interpret a one-word answer, find the question it answers (自分は同じ時間で何をしただろう).
- The concession 「もちろん〜。しかし〜」 in the last paragraph shows the writer is aware of objections; the claim after しかし is the thesis.
Passage
日本の会社員の平均通勤時間は、往復で一時間を超えると言われる。一年に二百日働くとすれば、年に二百時間以上、つまり八日以上を、電車やバスの中で過ごしている計算になる。この時間を「無駄」と考える人は多い。私も長い間そう思っていた。
きっかけは、転勤だった。それまで自転車で十分だった通勤が、電車で片道五十分になった。最初は、毎日往復で百分も取られることが苦痛で、スマートフォンでニュースやSNSを見て時間をつぶしていた。しかし、そうして過ごした日は、会社に着いたときも家に帰ったときも、なぜか疲れていた。
ある日、電車で本を読んでいる年配の男性を見た。分厚い歴史の本だった。降りる駅が同じで、毎朝同じ席に座っていた。数週間後、その本は別の本に変わっていた。私は、この人は一年で何冊読むのだろうと考えた。そして、自分は同じ時間で何をしただろうと思った。答えは、「何も」だった。
それから、私は通勤のルールを決めた。行きは本を読む。帰りは、何も見ない。窓の外を眺め、その日にあったことをぼんやり考える。行きの読書で、一年に四十冊読めるようになった。帰りの「何もしない時間」は、意外にも、家に着いてからの気分をよくした。会社の問題を家に持ち込まなくなったからだ。
社会学者は、家でも職場でもない、その中間にある場所を「第三の場所」と呼ぶことがある。カフェや公園、図書館などだ。私は、通勤時間もそうした場所になりうると思う。だれにも話しかけられず、仕事の電話も来ない。自分だけの五十分。それは、会社が与えてくれる「休憩」より、ずっと自由な時間だ。
もちろん、満員電車で本を開くのは難しいし、通勤そのものをなくせるならそれが一番だ。しかし、避けられない時間なら、「取られている」と考えるより、「与えられている」と考えたほうが、同じ五十分がまったく違うものになる。時間は、長さではなく、使い方で決まる。通勤時間は、私にそれを教えてくれた。
Vocabulary in this passage
- 通勤つうきん
- commuting
- 往復おうふく
- round trip
- 無駄むだ
- waste
- 転勤てんきん
- job transfer
- 片道かたみち
- one way
- 苦痛くつう
- pain, suffering
- 時間をつぶすじかんをつぶす
- to kill time
- 年配ねんぱい
- elderly
- 分厚いぶあつい
- thick (book)
- 眺めるながめる
- to gaze at
- 持ち込むもちこむ
- to bring in
- 避けるさける
- to avoid
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