仕事 — 「伝わる」と「伝える」は違う
By Nihongo PathUpdated
Strategy notes: read these before the passage
- Long essays have a turning point (転機). Find it; the text before it describes the old way, the text after describes the new way.
- The distinction in the title (伝える vs 伝わる) is defined explicitly near the end. Read that definition before answering the theme question.
- Look for expected-versus-actual patterns (心配したが、実際には逆で). They are prime question material.
Passage
私は市役所で、住民向けのお知らせを書く仕事をしている。ごみの出し方、税金の払い方、健康診断の案内。地味な仕事だと思われるかもしれないが、この仕事を十年続けてきて、一つだけ確信していることがある。「伝える」と「伝わる」は、まったく別のことだということだ。
入ったばかりのころ、私は正確であることを何より大事にしていた。法律の言葉をそのまま使い、例外も条件も全部書いた。一枚の紙に小さな字がぎっしり並んだ。上司には「間違いがない」とほめられた。ところが、窓口には毎日のように「どういう意味ですか」と聞きに来る人が絶えなかった。中には、お知らせを読んで手続きの期限を勘違いし、余計なお金を払うことになった高齢の方もいた。私は「正しく伝えた」つもりだった。しかし、相手には何も「伝わって」いなかったのだ。
転機は、ある先輩の一言だった。「お知らせは、読んだ人が次に何をすればいいか分かれば十分だ。全部を説明するのは、こっちの安心のためだろう」。痛いところを突かれたと思った。私が細かく書いていたのは、住民のためではなく、「書いてありますよ」と言えるようにするため、つまり自分を守るためだったのだ。
それからは、書く前に必ず「この紙を読む人は誰か」「その人が最初に知りたいことは何か」を考えるようになった。文は短く、一番大事なことを一番上に。専門用語は言い換え、例外は別の欄にまとめる。字を大きくするために、あえて情報を削ることもある。削ったことで問い合わせが増えるのではと心配したが、実際には逆で、窓口に来る人はむしろ減った。
もちろん、削るのは怖い。「書いていなかった」と言われるかもしれない。だが、読まれないお知らせに何を書いても、それは書いていないのと同じだ。読み手に届いて初めて、言葉は仕事をする。
「伝える」は、こちらの行為で終わる。「伝わる」は、相手の中で起きることだ。その違いを忘れないために、私は今も、書き終えたお知らせを一度、自分が八十歳になったつもりで読み返している。
Vocabulary in this passage
- 住民じゅうみん
- resident
- 健康診断けんこうしんだん
- health checkup
- 地味じみ
- plain, unglamorous
- 確信するかくしんする
- to be convinced
- 正確せいかく
- accurate
- ぎっしりぎっしり
- packed tightly
- 絶えないたえない
- never ceases
- 余計よけい
- unnecessary, extra
- 転機てんき
- turning point
- 痛いところを突くいたいところをつく
- to hit a sore spot
- 専門用語せんもんようご
- technical term
- 削るけずる
- to cut, trim
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