選択肢の多い時代に
By Nihongo PathUpdated
Strategy notes: read these before the passage
- Long essays follow: observation → evidence → example → objection → proposal → conclusion. Label paragraphs so 筆者の主張 questions send you to the last two.
- 「では〜か。それも単純すぎる」 raises and rejects an easy fix. The true problem is stated with 問題は〜ではなく〜にある.
- Technical terms in quotes (「満足化」) are defined right around them. Use the definition, not your own knowledge.
Passage
スーパーの棚に並ぶ二十種類の醤油。動画配信サービスの何万本という作品。転職サイトに載る無数の求人。現代は、かつてないほど選択肢の多い時代だ。選べることは自由の証であり、豊かさの指標だと、私たちは長く信じてきた。だが、その信念は、少し疑ってみる価値がある。
心理学に、よく知られた実験がある。店頭に二十四種類のジャムを並べた日と、六種類だけ並べた日を比べると、試食に立ち寄る客は二十四種類の日のほうが多かった。ところが、実際に買った客の割合は、六種類の日のほうが十倍近く高かったという。選択肢が多いほど人は惹かれるが、多すぎると決められなくなり、決めた後も「別のほうがよかったのでは」と後悔しやすくなる。
この現象は、ジャムに限らない。たとえば就職活動だ。私が学生だったころ、情報は大学の掲示板と分厚い企業案内がほとんどで、応募できる会社は数十社だった。今の学生は、スマートフォン一つで数千社の情報に触れられる。それなのに、「どこを受ければいいかわからない」という相談は、当時より明らかに増えている。選べる会社が増えたことで、「自分に合う会社が必ずどこかにあるはずだ」という期待も膨らみ、目の前の会社を「まだ最善ではない」と感じてしまうのだ。
では、選択肢を減らせばいいのか。それも単純すぎる。問題は選択肢の数そのものではなく、私たちが「すべての選択肢を比較してから選ぶべきだ」という考えに縛られていることにある。世の中のあらゆる醤油を比べてから買う人はいない。それなのに、人生の大きな決断になると、急に「後悔しないよう全部見てから」と考え始める。だが、大きな決断ほど、比較に必要な情報は手に入らない。入社してみなければ会社の本当の姿はわからず、住んでみなければ町の空気はわからない。
私が勧めたいのは、「十分に良い」という基準をあらかじめ自分で決めておくことだ。給料はこれ以上、通勤はこれ以内、仕事の内容はこういう方向。その条件を満たす選択肢が現れたら、ほかを見ずに決める。研究によれば、こうした「満足化」の態度をとる人は、「最善」を追い求める人より、決断後の満足度が一貫して高い。最善を探す人は、選んだ後も探し続けてしまうからだ。
選択肢が多い時代に必要なのは、より多くを見る目ではなく、見るのをやめる勇気だと思う。自分の基準を持ち、その基準で決め、決めたものを大切にする。選ばなかった道を数えないこと。それは諦めではなく、自分の選択を自分のものにするための技術だ。自由とは、無限に選べることではなく、選んだ後に迷わずにいられることなのかもしれない。
Vocabulary in this passage
- 選択肢せんたくし
- options, choices
- 配信はいしん
- streaming, distribution
- 求人きゅうじん
- job offer
- 証あかし
- proof
- 指標しひょう
- indicator
- 信念しんねん
- belief
- 惹かれるひかれる
- to be attracted
- 膨らむふくらむ
- to swell, grow
- 最善さいぜん
- the best
- 縛られるしばられる
- to be bound by
- あらかじめあらかじめ
- in advance
- 一貫していっかんして
- consistently
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