「便利」の先にあるもの(意見文)
By Nihongo PathUpdated
Strategy notes: read these before the passage
- Skim paragraph openings first to build a map: problem, example, counterargument, proposal, conclusion. Then answer questions in order; they follow the text.
- When a question quotes an underlined phrase, the explanation is almost always in the sentence right after it. Read one sentence on either side.
- Watch for options that overstate (完全に, すべて, 止めるべき). The author usually takes a balanced position and rejects the extreme.
Passage
駅の改札を通るとき、私たちはもう切符を買わない。カードやスマートフォンをかざすだけで、料金は自動的に引き落とされる。コンビニのレジも、銀行の窓口も、役所の手続きさえも、次々と「人を介さない」形に置き換わっている。この流れを止めることはできないし、止める必要もないと私は思う。便利になることは、基本的には良いことだ。
だが、最近ある光景を見て、少し考え込んでしまった。スーパーのセルフレジの前で、高齢の男性が立ちすくんでいた。画面の指示がわからず、後ろには列ができている。店員は他のレジで手一杯だ。結局、男性はかごを置いたまま店を出ていった。彼にとって、その店は「便利」ではなく、ただ「入れない場所」になったのである。
便利さとは、誰にとっての便利さなのか。技術の設計者が想定しているのは、多くの場合、画面の操作に慣れ、視力や指の動きに問題のない人である。その想定から外れる人にとって、新しい仕組みは便利どころか、以前より高い壁になる。しかも厄介なことに、壁は静かに高くなっていく。切符売り場が一つ減り、有人窓口が一つ閉まる。その一つ一つは小さな変化だが、積み重なれば、ある日突然「自分にはもう使えない」という現実になって現れる。
これに対して、「使い方を学べばいい」という意見がある。確かに、講習会などの支援は重要だ。しかし、すべての人が学べるわけではないし、学ぶ速さより変わる速さのほうが速いという現実もある。ようやく覚えたころには、また新しい仕組みに変わっている。学ぶ努力を個人だけに求めるのは、公平とは言えないだろう。
私が求めたいのは、「便利さの速度を落とせ」ということではない。求めたいのは、新しい仕組みを導入するときに、そこから外れる人のための「もう一つの道」を残しておくことだ。有人の窓口を一つだけ残す。紙の申込書も受け付ける。電話でも手続きできるようにする。それらは効率の面ではコストに見えるかもしれない。しかし、その小さな非効率こそが、社会が誰かを置き去りにしないための、最低限の約束ではないだろうか。
技術は進歩し続ける。そして、私たちの誰もがいつか、変化の速さについていけない側に回る。そのときに「入れない場所」が増えている社会と、「もう一つの道」が残されている社会と、どちらに暮らしたいか。答えは、今の私たちの選択にかかっている。
Vocabulary in this passage
- 改札かいさつ
- ticket gate
- かざすかざす
- to hold over (a reader)
- 引き落とすひきおとす
- to debit, withdraw automatically
- 介するかいする
- to go through (an intermediary)
- 立ちすくむたちすくむ
- to stand frozen
- 手一杯ていっぱい
- fully occupied
- 想定そうてい
- assumption
- 厄介やっかい
- troublesome
- 積み重なるつみかさなる
- to pile up, accumulate
- 公平こうへい
- fairness
- 置き去りおきざり
- leaving behind
- 最低限さいていげん
- minimum
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