随筆 — 隠した言葉、取り戻す言葉
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By Nihongo PathUpdated
Strategy notes: read these before the passage
- Personal essays with a time structure (最初の一年 → 三十を過ぎて → 最近) shift the writer's view at each stage. Track the change.
- The linguist's remark in paragraph 3 supplies the abstract frame; the writer's own experience is then reread through it.
- The last paragraph generalises: three acts (隠す, 取り戻す, 教える) are answers to one question. Expect a question on that unification.
Passage
上京して最初の一年、私は自分の言葉を隠すことに神経を使った。語尾のわずかな上がり下がり、地元でしか通じない語彙。それらが口をついて出るたびに、相手の目にかすかな「判定」が走るのを感じた。田舎者、という判定である。私は標準語を身につけることを、都会で生き延びるための技術だと考えていた。
だが、三十を過ぎて帰省した際、奇妙なことが起きた。私は方言を話せなくなっていたのではない。話せるのに、話すことに躊躇を覚えたのである。幼なじみの前で口をついて出た方言は、自分の耳にどこか演技じみて響いた。かつて隠そうとした言葉が、いまや「取り戻そうとしている言葉」になっていた。
言語学者は、方言とは単なる音声や語彙の体系ではなく、話者が「自分は誰であるか」を示すための資源だと言う。私は標準語を身につけることで、都会の一員という自己を獲得した。しかしその過程で、もう一つの自己を、意図せず手放していたのである。方言を話せることと、方言で自分を語れることとは、別のことだった。
最近、私は娘に地元の言葉を教えている。娘にとってそれは母語ではなく、父の故郷の「外国語」のようなものだろう。それでもよい、と思う。言葉は血のように受け継がれるものではなく、選び直されるものだ。私自身がそうであったように。隠すことも、取り戻すことも、教えることも、すべては「自分をどう語るか」という一つの問いの、異なる答えにすぎない。
Vocabulary in this passage
- 上京するじょうきょうする
- to move to Tokyo
- 語尾ごび
- sentence ending, intonation
- 口をついて出るくちをついてでる
- to slip out (of the mouth)
- 判定はんてい
- judgement
- 帰省するきせいする
- to return to one's hometown
- 躊躇ちゅうちょ
- hesitation
- 演技じみたえんぎじみた
- seeming like acting
- 体系たいけい
- system
- 資源しげん
- resource
- 獲得するかくとくする
- to acquire
- 手放すてばなす
- to let go of
- 受け継ぐうけつぐ
- to inherit
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