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道Nihongo Path

論説 — 「豊かさ」を測り直す

Time limit 15 min

By Nihongo PathUpdated

Strategy notes: read these before the passage

  • Long argumentative essays usually reject two opposing positions and then propose a third. Identify both rejected positions and the shared error the writer attributes to them.
  • The essay anticipates its own counter-argument (では、別の物差しを持てばよいのか。ここに罠がある). Track how the writer answers each self-posed question.
  • Distinguish 指標の交換 (replacing the yardstick) from 指標との距離の取り方 (how to relate to it). The proposal is the second; the first is explicitly rejected.

Passage

経済成長が鈍化(どんか)して久しい。国内総生産(こくないそうせいさん)の伸び率は年によって上下するものの、かつてのような右肩上がりを取り戻す気配はない。この事実をめぐって、悲観と楽観の二つの語りが並行して存在している。悲観論者は「成長なくして豊かさなし」と言い、楽観論者は「もう十分に豊かなのだから、成長は要らない」と言う。私はどちらの語りにも、同じ一つの誤りが潜(ひそ)んでいると考える。それは、「豊かさ」を測る物差(ものさ)しを問い直さないまま、その量だけを議論しているという誤りである。

国内総生産は、市場で取引される財(ざい)とサービスの総額を測る。この指標(しひょう)が優れているのは、比較可能で、集計(しゅうけい)が容易で、政策の効果を数字で示せる点にある。だが、その設計上、市場を通らないものは一切数えられない。家庭内の育児も、隣人への手助けも、静かな夜も、指標の上ではゼロである。逆に、交通事故が増えて修理と医療の需要が伸びれば、数字は上がる。指標は「何が売買されたか」を語るのであって、「人がどう生きているか」を語るのではない。

この限界は、指標を設計した経済学者たち自身が最初から認めていたことだ。にもかかわらず、数字は一度社会に定着すると、その出自(しゅつじ)を忘れて独り歩きを始める。「測れるもの」が「大事なもの」にすり替わり、「測れないもの」は政策の視野から静かに消えていく。成長率が落ちたときに社会が感じる不安の相当部分は、実際の生活の悪化ではなく、この「唯一の物差し」の目盛りが下がったことへの不安なのではないか。

では、別の物差しを持てばよいのか。ここに罠(わな)がある。幸福度や生活満足度を国際比較する試みは既に多く、それ自体は有益だ。しかし、それらを「新しい唯一の指標」に据(す)えようとした瞬間、同じ問題が形を変えて再来する。幸福を測ろうとすれば、測りやすい幸福だけが数えられ、測りにくい幸福は消える。物差しを替えることは、物差しへの依存を解くことではない。

私が提案したいのは、指標の交換ではなく、指標との距離の取り方である。数字は現実の一断面を切り取る道具として尊重されるべきだが、その断面の外に何があるかを、数字を使う者は常に言語化する義務を負う。「成長率は下がったが、労働時間は減り、通勤は短くなり、親が子と過ごす時間は増えた」——こうした文を、数字と並べて語ること。統計に還元(かんげん)されない部分を、統計と同じ重さで扱うこと。

これは容易ではない。言語化されたものは数字ほど比較しにくく、政治的な説得力にも欠ける。「測れないが大事だ」という主張は、しばしば「測れないから曖昧(あいまい)だ」と切り捨てられる。しかしその切り捨てこそが、物差しへの依存の症状なのである。測れないものを語る困難を引き受けることは、思考の怠慢(たいまん)ではなく、思考の労働である。

成長が鈍化した社会は、確かに一つの物語を失った。だがそれは同時に、その物語の外に何があったかを見直す機会でもある。豊かさとは何か、という問いを、成長という答えで塞(ふさ)がずに済む時代が来たのだと、私は捉(とら)えている。悲観でも楽観でもなく、測り直すこと。それが、いま求められている態度だと思う。

Vocabulary in this passage

鈍化するどんかする
to slow down
国内総生産こくないそうせいさん
gross domestic product
右肩上がりみぎかたあがり
steady rise
物差しものさし
yardstick, measure
指標しひょう
indicator, index
集計しゅうけい
aggregation, totaling
出自しゅつじ
origin
すり替わるすりかわる
to be swapped, substituted
目盛りめもり
scale marking
据えるすえる
to set up, install
還元するかんげんする
to reduce to
怠慢たいまん
negligence

Questions

Ready

15:00

of 15:00

Question 1

Choose the best answer

筆者が悲観論と楽観論の両方に共通すると考える「誤り」とは何か。

Question 2

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国内総生産の限界について、筆者が挙げている例と合っているものはどれか。

Question 3

Choose the best answer

幸福度などの新しい指標について、筆者はどのように考えているか。

Question 4

Choose the best answer

筆者の提案の中心はどれか。

Question 5

Choose the best answer

「思考の怠慢ではなく、思考の労働である」という表現から読み取れる筆者の態度はどれか。

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