論説 — 「役に立たない」ものの効用
By Nihongo PathUpdated
Strategy notes: read these before the passage
- The writer distinguishes their defence from the usual one (人間を豊かにする). Distractors will offer the usual defence as the writer's view.
- Two objections are quoted (paragraphs 2 and 5); each is accepted as reasonable (否定しない / もっともな問い) before being answered.
- The closing sentence is an ironic reversal of 役に立つ; be ready to paraphrase it.
Passage
大学から教養科目が削られている。哲学、文学、歴史——これらは「実社会で使えない」として、専門科目や実践的な技能訓練に席を譲りつつある。学生の側も、就職に直結しない科目に時間を割く余裕はないと言う。この流れを嘆く声は、しばしば「教養は人間を豊かにする」という抽象的な擁護に終始し、説得力を欠いてきた。私はここで、別の角度から教養を弁護したい。
まず、批判者の言い分を正確に受け止めよう。彼らは、教養科目が「役に立たない」と言っているのではない。「役に立つことを示せない」と言っているのである。専門科目なら、習得した技能と職務との対応を示せる。教養科目には、それがない。限られた予算と時間のもとで、効果を示せないものが削られるのは、制度としては合理的な判断である。私はこの論理の筋道を否定しない。
しかし、この論理は一つの前提に依存している。「役に立つ」とは、現在の職務に対応することだ、という前提である。この前提は、職務が安定している時代には妥当だった。だが、今日の労働市場では、大学で学んだ専門技能の半分が十年で陳腐化すると言われる。技能の寿命が、職業人生より短いのである。この状況で「現在の職務に対応する」ことを基準に教育を設計すれば、卒業生は十年後、対応すべき職務を失った専門家になる。
教養科目が教えているのは、特定の知識ではない。ある問いを、異なる時代や異なる分野の人間がどう扱ったかを追体験することを通じて、「自分の前提を疑う」という動作を身につけさせることである。哲学は、当然と思われている概念を分解する訓練であり、歴史は、現在の常識が偶然の産物であることを示す。文学は、自分とは異なる意識のなかに一時的に住む経験を与える。これらはいずれも、直接には何の職務にも対応しない。だがそれらは、職務が変わったときに、新しい職務を学び直すための足場となる。
ここで批判者は再び問うだろう。「それなら、その『前提を疑う力』を直接教えればよい。哲学や文学という遠回りは不要ではないか」と。もっともな問いである。だが私の経験では、「前提を疑え」と抽象的に教えられた学生は、前提を疑う姿勢ではなく、「前提を疑うべきだ」という新しい前提を身につけるだけである。動作は、具体的な素材に繰り返し向き合うことでしか身につかない。教養科目の「遠回り」は、遠回りに見えて、実は唯一の道なのである。
私は、教養科目を「人間を豊かにする」という理由で守ろうとは思わない。それは真実かもしれないが、予算を配分する者の耳には届かない。守るべき理由は、もっと即物的である。教養は、変化する世界で職業人生を全うするための、最も長持ちする技能なのだ。「役に立たない」ものを削った大学が送り出すのは、今日役に立ち、明日役に立たなくなる卒業生である。
Vocabulary in this passage
- 教養きょうよう
- liberal arts, culture
- 席を譲るせきをゆずる
- to give way to
- 擁護ようご
- defence, advocacy
- 終始するしゅうしする
- to be confined to, from start to finish
- 筋道すじみち
- line of reasoning
- 妥当だとう
- valid, appropriate
- 陳腐化ちんぷか
- obsolescence
- 追体験するついたいけんする
- to relive, re-experience
- 足場あしば
- foothold, scaffolding
- 遠回りとおまわり
- detour
- 即物的そくぶつてき
- practical, down-to-earth
- 全うするまっとうする
- to carry through to the end
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