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道Nihongo Path

論説 — 「役に立たない」ものの効用

Time limit 16 min 40 s

By Nihongo PathUpdated

Strategy notes: read these before the passage

  • The writer distinguishes their defence from the usual one (人間を豊かにする). Distractors will offer the usual defence as the writer's view.
  • Two objections are quoted (paragraphs 2 and 5); each is accepted as reasonable (否定しない / もっともな問い) before being answered.
  • The closing sentence is an ironic reversal of 役に立つ; be ready to paraphrase it.

Passage

大学から教養(きょうよう)科目が削られている。哲学、文学、歴史——これらは「実社会で使えない」として、専門科目や実践的な技能訓練に席を譲りつつある。学生の側も、就職に直結しない科目に時間を割く余裕はないと言う。この流れを嘆く声は、しばしば「教養は人間を豊かにする」という抽象的な擁護(ようご)に終始し、説得力を欠いてきた。私はここで、別の角度から教養を弁護したい。

まず、批判者の言い分を正確に受け止めよう。彼らは、教養科目が「役に立たない」と言っているのではない。「役に立つことを示せない」と言っているのである。専門科目なら、習得した技能と職務との対応を示せる。教養科目には、それがない。限られた予算と時間のもとで、効果を示せないものが削られるのは、制度としては合理的な判断である。私はこの論理の筋道(すじみち)を否定しない。

しかし、この論理は一つの前提に依存している。「役に立つ」とは、現在の職務に対応することだ、という前提である。この前提は、職務が安定している時代には妥当(だとう)だった。だが、今日の労働市場では、大学で学んだ専門技能の半分が十年で陳腐化(ちんぷか)すると言われる。技能の寿命が、職業人生より短いのである。この状況で「現在の職務に対応する」ことを基準に教育を設計すれば、卒業生は十年後、対応すべき職務を失った専門家になる。

教養科目が教えているのは、特定の知識ではない。ある問いを、異なる時代や異なる分野の人間がどう扱ったかを追体験(ついたいけん)することを通じて、「自分の前提を疑う」という動作を身につけさせることである。哲学は、当然と思われている概念を分解する訓練であり、歴史は、現在の常識が偶然の産物(さんぶつ)であることを示す。文学は、自分とは異なる意識のなかに一時的に住む経験を与える。これらはいずれも、直接には何の職務にも対応しない。だがそれらは、職務が変わったときに、新しい職務を学び直すための足場(あしば)となる。

ここで批判者は再び問うだろう。「それなら、その『前提を疑う力』を直接教えればよい。哲学や文学という遠回りは不要ではないか」と。もっともな問いである。だが私の経験では、「前提を疑え」と抽象的に教えられた学生は、前提を疑う姿勢ではなく、「前提を疑うべきだ」という新しい前提を身につけるだけである。動作は、具体的な素材に繰り返し向き合うことでしか身につかない。教養科目の「遠回り」は、遠回りに見えて、実は唯一の道なのである。

私は、教養科目を「人間を豊かにする」という理由で守ろうとは思わない。それは真実かもしれないが、予算を配分する者の耳には届かない。守るべき理由は、もっと即物的(そくぶつてき)である。教養は、変化する世界で職業人生を全(まっと)うするための、最も長持ちする技能なのだ。「役に立たない」ものを削った大学が送り出すのは、今日役に立ち、明日役に立たなくなる卒業生である。

Vocabulary in this passage

教養きょうよう
liberal arts, culture
席を譲るせきをゆずる
to give way to
擁護ようご
defence, advocacy
終始するしゅうしする
to be confined to, from start to finish
筋道すじみち
line of reasoning
妥当だとう
valid, appropriate
陳腐化ちんぷか
obsolescence
追体験するついたいけんする
to relive, re-experience
足場あしば
foothold, scaffolding
遠回りとおまわり
detour
即物的そくぶつてき
practical, down-to-earth
全うするまっとうする
to carry through to the end

Questions

Ready

16:40

of 16:40

Question 1

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従来の教養擁護が説得力を欠いてきたのはなぜか。

Question 2

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筆者は批判者の言い分をどう理解しているか。

Question 3

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「対応すべき職務を失った専門家」とはどういう意味か。

Question 4

Choose the best answer

教養科目の「遠回り」が「実は唯一の道」なのはなぜか。

Question 5

Choose the best answer

筆者が教養を擁護する「別の角度」とはどのようなものか。

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