評論 — 「役に立ちません」と書けない申請書
By Nihongo PathUpdated
Strategy notes: read these before the passage
- '第一に / 第二に、より深刻なことに' ranks the two distortions. A question may ask why the second is worse.
- The historical example (電磁気学) supports the claim that value can only be judged afterwards; connect example to claim.
- The proposal paragraph concedes a cost (多くは何の役にも立たない) before asserting the benefit. Do not mistake the concession for the conclusion.
Passage
「その研究は何の役に立つのですか」。基礎研究に携わる者が、予算審査のたびに突きつけられる問いである。誠実に答えれば「わかりません」となる。役に立つかどうかがわかっている研究は、もはや基礎研究ではないからだ。だが「わかりません」と答えた申請書に予算がつくことはない。こうして研究者は、本心では信じていない「応用の見通し」を書き添えることを学ぶ。
この制度が生む歪みは二重である。第一に、申請書に書かれた「見通し」は、審査を通すための修辞であるため、実際の研究の方向を反映しない。審査側もそれを承知で読んでいる。双方が虚構と知りながら演じる儀式に、膨大な時間が費やされる。第二に、より深刻なことに、「見通し」を書きやすい研究ばかりが選ばれる。真に予測不能な研究——つまり最も大きな発見をもたらしうる研究——ほど、この篩から落ちる。
歴史を振り返れば、現代を支える技術の多くは、当初「役に立たない」とされた研究から生まれた。電磁気学は、発見当時、玩具以上の用途を想像されていなかった。研究の価値は、事後にしか判定できないことが多い。にもかかわらず、事前の「見通し」で選別する制度は、価値の判定を、最もそれに適さない時点で行っていることになる。
では、どうすべきか。私は、予算の一定割合を「用途を問わない枠」として切り分けることを提案したい。審査基準は、応用の見通しではなく、問いの独創性と研究者の実績のみとする。その枠から生まれる成果の多くは、おそらく何の役にも立たない。しかし、残りのわずかな成果が、それ以外の全予算を上回る価値を持ちうる。それが基礎研究というものである。役に立たないことを許容する余裕こそが、役に立つものを生む土壌なのだ。
Vocabulary in this passage
- 基礎研究きそけんきゅう
- basic research
- 携わるたずさわる
- to be engaged in
- 突きつけるつきつける
- to thrust before, confront with
- 見通しみとおし
- outlook, prospect
- 歪みゆがみ
- distortion
- 修辞しゅうじ
- rhetoric
- 虚構きょこう
- fiction
- 篩ふるい
- sieve
- 玩具がんぐ
- toy
- 選別するせんべつする
- to sort, select
- 独創性どくそうせい
- originality
- 許容するきょようする
- to tolerate, allow
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